先日5月17日にニューヨークでAccounting Blockchain Coalition(ABC)というNPOが主催し、アメリカの会計・監査・税務ファームやIT企業、ブロックチェーンベンチャーが多数参加した「Blockchain, Accounting, Audit & Tax Conference Ⅱ」に出席してきましたので、カンファレンスの内容をレポート致します。

ここニューヨークでも去年ぐらいから暗号化通貨の盛り上がりとともに企業としてブロックチェーン技術を活用しようとした実証実験があらゆる業界で始まってきています。その中で会計・監査や税務にフォーカスした現状課題をこのABCという枠組みで各参加企業からのメンバーがワーキンググループ内で議論し、メンバー内で専門知識やその経験を共有しようという試みです。

私は元々大学で会計を専攻し、日本で働き始めてからもERP(Enterprise Resource Planning)ソフトウェアの会計コンサルタントとして長年、日本や海外でシステムの導入や業務改善などに関わってきましたので、今回ブロックチェーンテクノロジーを活用して会計上の現状課題にどのような考えを持っているのか、将来的にどんな対応を行っていくのか非常に興味を持って参加しました。恐らく日本人で参加していたのは私だけだったと思います。

また海外でのこのようなカンファレンスでは積極的にネットワーキング(参加者との交流会)も盛んに行われていますので、参加していたブロックチェーン企業やITベンチャー、大学教授等の情報もご紹介します。

今回のレポート内容は以下の通りです。

Contents

Accounting Blockchain Coalition(ABC)の紹介

このABCというNPOのミッションとブロックチェーンカンファレンスの目的は、以下のように定義されています。

To help organizations navigate accounting issues related to digital assets and distributed ledger technologies, including blockchain. We offer a platform for our members to contribute their knowledge and expertise while fostering best practices.

ブロックチェーンを含むデジタル資産と分散元帳テクノロジに関連する会計上の課題を組織が解決するのを支援すること。私たちは、ベストプラクティスを検証しながら、参加メンバーに知識と専門知識を貢献するためのプラットフォームを提供しています。

Aims to educate and empower its members to understand the impact and opportunities that blockchain technology brings to the accounting industry
Each participant has the opportunity to contribute his/her strategic or technical influence and expertise whilst gaining early access and understanding of the most innovative blockchain technology.

このABCの目的は、ブロックチェーンテクノロジーが会計業界にもたらした影響と機会を理解し、参加メンバーを教育し、活力を与えること。
各参加者は、戦略的または技術的な影響力と専門知識を提供し、最も革新的なブロックチェーンテクノロジーに早期にアクセスし理解する機会を得られます。

ABCのBoard of Directorsには、アメリカの会計事務所のパートナー、税務ソフトウェア会社のパートナー、大学教授、ITベンチャーの経営者が参加しており、特に注目しているのはNYのブロックチェーン関連企業であるConsenSysが全面的にバックアップしています。

今回ConsenSys創業者のJoseph Lubin自らがパネルディスカッションにも参加して積極的に発言していましたが、彼らはEthereumベースのプラットフォームアプリケーションを多数開発しており、ドバイのブロックチェーンを使ったスマートシティや世界中でブロックチェーン関連プロジェクトに関わっています。
ちょうど先日もアマゾンとコンセンシスが提携し、Amazon Web ServiceでコンセンシスのKaleidoと呼ばれるイーサリアムベースのブロックチェーン技術を抵抗することを目指すとしています。

参考ニュースリリース:https://www.cnbc.com/2018/05/15/amazon-is-moving-into-blockchain-with-a-new-partnership.html

ABCでは現在会計に関わる4つのワーキンググループを立ち上げ、参加企業から派遣されたメンバーはワーキンググループ内で積極的に実証実験などで検証し、専門知識を共通することができます。

Audit and Accounting (監査と会計)
デジタルアセットや収益認識、資産分類などの会計上のベストプラクティスと検証したガイダンスについてのレビューと議論、レポートを共有する。

Taxation(税務)
税務業務プロセスの改善とデジタルアセットの税務上の取り扱いに関する業界のベストプラクティスのレビューと議論、レポートを共有する。

Regulatory Compliance(規制遵守)
新しい分散台帳テクノロジーやブロックチェーン、デジタルアセットの時代に会計制度に準拠したガイダンスや情報をレビュー、議論、レポートを共有する。

Internal Control(内部統制)
成長する業界の情報システムの更新や変更に対応するために企業が適応しなければならない、あるいは獲得しなければならない内部ツールとソリューションに焦点を当てた情報の提供、分析、および使用事例の提供を行う。

【藤本コメント】
以前からこのABCという会計に関わるブロックチェーングループは知っていましたが、今回大勢の企業や関係者が参加した大変盛況なカンファレンスで最近のブロックチェーンに関する注目度合が良く分かりました。
特にグローバルに展開している大手会計事務所よりもアメリカの各都市を拠点とする中規模会計事務所が多数参加しており、将来的なブロックチェーンが会計・監査や税務に与える影響が大きいことによる危機感の表れでないかと感じました。
また中堅規模の会計事務所も自らブロックチェーンベンチャーなどを支援しているので、シリコンバレーやニューヨークだけでなく、地方都市からも続々と新しいブロックチェーンベンチャーが始動し始めています。

How ERP Providers and Accounting Systems are preparing for DLT Change?

ABCのカンファレンスは朝9時から17時まで1日かけてパネルディスカッションが行われましたが、私が特に興味を持って聞いたセッションは、「ERPソフトウェア会社や会計システムはDistributed Ledger Technologies(DLT:分散型台帳テクノロジー)の変化にどう対応するのか?」という内容です。

このパネルディスカッションはマサチューセッツ大学の准教授であるGraham Gal博士がモデレーターを務め、ミシガン州立大学で会計システムを教えているBill McCarthy教授(ABCのBoardメンバーでもある)、SAPのNicholas Guglielmo、OracleのSanjay Matthewがパネリストとして参加しました。

このセッションでは、学術的に今後のDistributed Ledger(分散型台帳)が会計システムにどう影響を及ぼすか、またERPソフトウェア会社としてどのように考えているかをディスカッションするのものです。

パネリストの3人からは一同に「Distributed Ledger(分散型台帳)は将来のERPシステムに大きなインパクトがある。」と同意しています。

Bill McCarthy教授からは、会計システムとして1990年代からのERPアプリケーションの役割が大きくなる中で、今後ブロックチェーンを活用したDistributed Business Transaction Repository(分散型の取引情報レポジトリ)はより効率的で自動化された将来的な会計システムとして大きな影響を及ぼすだろうと発言していました。このお話は、今個別に企業が導入しているERPを1つの大きなDistributed Business Transaction Repositoryとして活用すれば、トランザクションが発生しても自動的に相手の処理もブロックチェーンに書き込み、リアルタイムで改ざん不可な分散台帳ができるとのイメージです。

SAPのNick Guglielmoは現状のSAP4HANAとブロックチェーンだけでなく、AI/機械学習やビックデータ、アナリティスクなどの最新テクノロジー機能を含んだLeonardoと統合してすることを当面の目標としていること、またOracleのSanjayはBeyond ERPの3rdパーティシステムやマーケットプレイスなど、どのように付加価値のあるブロックチェーンテクノロジーを既存のERPシステムに取り込むかが重要になると説明しています。ブロックチェーンベンチャーが提供するサービスやFintechサービスとデータ連携し、ブロックチェーンエコノミーを作ることになるだろうという予想でした。

またOracleのSanjayからは、「今後HyperLedgerをベースにしたブロックチェーンプラットフォーム:Next Generation ERPを開発する予定であり、我々はブロックチェーンテクノロジーを活用して効率的で透明性のあるERPシステムを開発する」ことを明言しています。

【藤本コメント】
ERPを代表するSAP、Oracleの2社と会計システムを長年研究している大学教授のパネルセッションでしたが、基本的には2社とも既存のERPシステム(オンプレミス/クラウド)にブロックチェーンを含めた新たなアプリケーションやAI、機械学習、アナリティックス機能を統合していく方向性になりそうです。
OracleのSanjayが話していたHyperLedgerをベースにしたブロックチェーンプラットフォームのNext Generation ERPシステムを開発中だということですので、全てのトランザクションがTriple Entry Accountingとしてブロックチェーンに書き込まれ、本当のリアルタイムで業務が自動化、保証されたデータ管理などが実現した未来のシステムを期待しています。

参加していたブロックチェーン企業、ITベンチャー、大学教授のご紹介

今回のカンファレンスで参加していた興味ある企業やネットワークで情報交換した方々をご紹介したいと思います。

ConsenSys
ConsenSysのCo-funderであるJoseph LubinはEthereumのエコシステムのための製品やサービスを提供することを名言しています。また有力企業との提携やスタートアップの支援を通じてブロックチェーンを世界中に浸透させることをミッションにしている会社です。
恐らく今ブロックチェーン業界で一番勢いのある会社の1つだと思います。

Balanc3
ConsenSysの1つのサービスであるBalanc3は暗号化通貨ベースのブロックチェーン会計プラットフォームです。暗号化通貨を外貨換算のように換算レートを使って取引や仕訳を計上します。現状どれだけの企業が暗号化通貨を保持しているが分かりませんが、このようなデジタルアセット取引を管理するブロックチェーン会計アプリケーションです。
その他同じようなブロックチェーンの会計・税務プラットフォームベンチャーがアメリカ国内で活発に始動し始めています。

Michigan State University Bill McCharthy教授
ミシガン州立大学で会計システムについて教えているBill McCarthy教授でABCのBoard of Directorの一人です。カンファレンス後のネットワーキングで日本企業の会計システムの現状と今後について直接お話させて頂きました。長年グローバル企業のあるべき会計システムの姿について研究しているので、次期ERPシステムを検討している企業はアドバイスを頂けるようアレンジしたいと考えています。

AURABLOCKS
Oracle Blockchainテクノロジーを利用したブロックチェーンの会社です。彼らのサービスはブロックチェーンテクノロジーを使ったシステム導入、ブロックチェーンベースのトレーニング、企業のリクエストに応じたブロックチェーンコンサルティングを提供しています。
彼らはすでにOracle Blockchain Cloud Serviceを使ってBiz2Creditというビジネスローン会社へサービスを導入済みで去年のOracle Open World 2017でも紹介されています。

直接CEO、CTOとお話しましたが、日本のITや金融、エネルギー市場にも大変興味を持っていますので、また協業できないか検討する予定です。もしご興味がある方はご連絡下さい。

【藤本コメント】
アメリカでの会計事務所やITベンダー、ブロックチェーンベンチャーなど続々とブロックチェーンを活用したプロジェクトや実証実験、新しいサービスが開発、提供されてきています。
ただABCのような会計・税務・監査業務と最新のテクノロジーを融合し、将来を見据えた組織は、今後の新業務、制度や規則などにおいて重要な役割を果たすと思います。
まだまだこの新しいテクノロジーを活用した業務やサービスはアメリカでも始まったばかりです。今後もこのような情報をフォローしながら、レポートしたいと考えています。

もしより詳細な情報を知りたい方はこちらまでご連絡下さい。その他セッション情報や追加の参加企業情報などを送付致します。