今月のBluevision MailにもポストモダンERPについて書きましたが、日系企業にとってより詳細に今後のポストモダンERPの展開やグローバル戦略について考察したい。
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ポストモダンERPとは
コアのERPを中心に据えつつ、周囲にクラウドERPなどを組み合わせたグループ全体でのERPのことを言います。1990年後半から2000年代に各企業がバラバラの業務アプリケーションを統合型の業務アプリケーションであるERP導入を行い、関連子会社含めて展開を行ってきました。しかし、グローバルでのビジネス環境は激しく変化しており、従来のコアERPだけで対応するのが難しくなるのと同時に他社との差別化や事業拡大のために柔軟に革新的なクラウドベースのアプリケーションを取り込む必要があります。
今後はよりコアERPとクラウドベースのアプリケーションから構成されるハイブリッドERPの流れになってきています。
ハイブリッドERPモデルとペース・レイヤー戦略
ハイブリッド型のERPは以下のように中心に基幹業務の会計や販売、購買などのCore ERPがあり、その周りに補完するようにCloud ERPとの連携をしながら会社全体の業務を構築していく仕組みです。
またCloud ERPは全社ではなく、一事業で使用することも可能で状況により全社への拡張性も柔軟に対応できます。
基幹業務アプリケーション戦略として参考となるのが、ガートナーが提唱しているペースレイヤー戦略です。ペースレイヤー戦略とは、「Core ERPに持たせる機能を記録、差別化、革新のペースレイヤーに分類」する考え方で、これに加え、どのようにグループ会社に展開していくかも今後は重要になってきます。
基幹業務アプリケーションのグローバル展開戦略
日本企業の中にはすでにCore ERPを導入して、各日本の子会社、海外子会社に展開している企業もありますが、まだグローバル全体の観点ではこれから海外含めた基幹業務アプリケーションの戦略、計画を進めている状況です。
基幹業務アプリケーションのCore ERPをどの製品でどの範囲とするかは企業それぞれの判断がありますが、それを補完するCloude ERPも含めて今後はより早く、安く、柔軟に海外子会社含めて展開していく必要があります。
そこで今までの経験から重要になるのは、展開する子会社、グループ会社の会社/事業の重要度、地域重要度を分類し、展開する方法です。
例えばアメリカ本社で重要な拠点の場合、日本本社と同様にCore ERPのテンプレートとCloud ERPモデルで展開しますが、その他アメリカでも通常拠点となる場合は、短期で安価に導入できるCore ERPのテンプレート展開、もしくはクラウドベースのCore ERP Cloudを展開していきながら、重要度が増せばよりハイブリッドモデルに展開していく仕組みです。
もう1つの展開ポイントはどれだけ迅速に展開導入していくかのスピードが非常に重要になってきます。現状もう1社に何年もかけて導入する手法やスケジュールでは、全社導入完了時には既存システムが陳腐化し、新しいビジネスモデルと既存システムにギャップが生じてしまうリスクの可能性もあります。
これからは、いかに全社システム、業務をグローバルで標準化し、新しいビジネスに柔軟に対応できる基幹業務やシステムが必要になってきます。子会社、グループ会社の重要度、優先度を分類しながら展開することになるので、より早くグローバル展開でき、グループ全体での経営データの管理や可視化、データ活用などのメリットを享受できます。
ポストモダンERPの展開事例
ここで1つポストモダンERPのグローバル展開事例として、既にCore ERPを日本本社にて導入済みの日系企業にとってリコーのOracle EBS導入戦略は参考になるのではないでしょうか。
http://diamond.jp/articles/-/142644
彼らは、現状主要事業となる複合機事業の基幹業務と、新規ビジネスなど小規模な事業でERPシステムを使い分ける「2 Tier ERP戦略」を取っています。
ここでのポイントは以下のコメントでしょう。
- 「Tier2である周辺事業や新規ビジネス領域では、ビジネスのスピーディな立ち上げや拡大を可能にするERP Cloudを利用しようと考えました。」(リコー執行役員石野氏)
- パブリック・クラウドならばスピーディに導入できるし、運用保守の負担も軽減できる。
- クラウドでは“業務をシステムに合わせる”トップダウンのアプローチが不可欠となる。そのアプローチを成功させるうえで最も重要なのは「事業部門長などビジネス・オーナーとしっかりエンゲージメント(合意)すること」
- 「ERP Cloudの機能が違うと感じるなら、それは自分たちのやり方が間違っている」
ポストモダンERPのグローバル運用戦略
ポストモダンERPにとって展開戦略と同様に重要なのは運用保守戦略です。ERPのメリットを出すべくグローバルに展開した後にどう運用保守していくか、システム運用コストだけでなくグローバルな視点で見た会社全体の経営データの管理、拡張、ユーザトレーニング、セキュリティをどう確保していくかを検討しなければなりません。
1つの運用戦略の方法は、グローバル全体を各リージョンごとに分けて運用管理を任せる方法です。例えば、日本リージョン、アジアリージョン、アメリカ(南北アメリカ)リージョン、EMEA(ヨーロッパアフリカ)リージョンの4リージョン、または日本・アジアを合わせた1つのアジアリージョンとして区分することです。
これらのリージョンを分ける理由は、まず同じ時差内をカバーでき、夜間は別のリージョンがサポートできるます。
またリージョンごとにサポートする共通言語が似通っている場合が多いことが挙げられます。アメリカリージョンであれば、英語、またはスペイン語、アジアリージョンであれば、中国語、または英語などです。
システム全体の運用保守に関しては、オフショアをうまく活用するなど、コスト面、サポート面、セキュリティなどグローバルな視点での戦略や体制が必要になります。
ポストモダンERPのネスクトステップ
ポストモダンERPの次のステップに関しては、オンプレミスとクラウドを組み合わせるハイブリッドモデルに移行していることをお話しましたが、次のステップとしては、オンプレミスからの全面的なクラウドベースのERPモデルに移行すると考えています。
現実的にはアメリカ企業でもオンプレミスのERPからクラウドERPとの食い合わせであるハイブリッドモデルではなく、直接クラウドERPに全面刷新するクライアント事例も出てきています。今後クラウドERPに移行するためには、より機能範囲の拡大や他システムとのインテグレーションのしやすさがキーになり、2020年前後にはどんどんクラウドベースのERPに移行する企業も現れるでしょう。
クラウドERPの次は、企業のコアコンピタンスだけにフォーカスし、バックオフィスや経営データ管理や分析、保守までも全面アウトソースする企業も出てくるかもしれません。