先週木曜日にニューヨークのマンハッタンで行われたBlockchain in Energy Forumに参加してきましたので、カンファレンスの内容をレポートします。

カンファレンスの前日のNew Yorkは、久しぶりの吹雪になりましたが、問題なくカンファレンスは行われました。ローアーマンハッタンのウォール街の近くのカンファレンスルームでGreentech Media(*1)というエネルギー系のメディア、リサーチ会社主催で「Blockchain in Energy Forum 2018」が開催されました。

このカンファレンスはエネルギー業界でブロックチェーンをどう活用するかをUtility、テクノロジーベンチャー企業、エネルギー関連企業、弁護士事務所、投資会社などが一同に集まり、具体的な事例や活動内容を紹介しながら、1日かけてディスカッションしました。
カンファレンス会場やカフェのオープンスペースは常に大盛況だったので、恐らく200人以上が参加していたのではないでしょうか。その中でもブロックチェーンのベンチャー企業やUtility関係者が多かった印象で、US国内に限らず、UK、ヨーロッパ諸国、日本からも参加されていました。

私がこのカンファレンスで印象に残ったポイントは以下の3つです。

Contents

エネルギー業界におけるブロックチェーンのメリット

エネルギー業界におけるブロックチェーンのメリットは各セッションにおいて以下を挙げていました。

  1. 分散型台帳による強固な安全性
  2. スマートコントラクトなどによる業務の効率化やコスト削減
  3. 顧客との請求や支払いなどのコミュニケーション

パネルディスカッションに参加していたUtility、ベンチャー企業の経営者からまずブロックチェーンを活用することで取引データの管理が分散型台帳に書き込まれ、データの安全性が担保されること、またUtility会社などは、ブロックチェーンとスマートコントラクト技術を応用することで業務の自動化や取引コストを大幅に改善できるだろうとのコメントがパネリストからありました。またトークンを使うことで顧客と円滑なコミュニケーションや請求・支払処理も自動化、効率化されるだろうということです。

今回のスタートアップセッションでも先日東京電力から投資を受けたブロックチェーンテクノロジー会社のElectron(*2)のCOOであるJoJo Hubbardさんが出席されていましたが、エネルギー取引プラットフォームやアプリケーションなどの開発会社、ハードウェア会社、プロトコル団体、ITサービスやブロックチェーンを活用したソリューション会社などエネルギー業界で122の会社、組織、団体が乱立している状況です。

出典:GTM Research at “Blockchain in Energy Form 2018”

この中で私が注目しているのは、エネルギーのP2P取引を行うプラットフォームやアプリケーションを開発、サービスを提供するテクノロジー会社グループ(Blockchain Platform and Applications)、現在NYのブルックリンでブロックチェーンを活用したP2P取引の実証実験を主導しているLO3 Energy(*3)などのソリューション会社グループ(In-House Blockchain Platform and Applications)です。

現在懸念されているブロックチェーンの課題

エネルギー業界のブロックチェーンについての将来性や可能性は様々なビジネス分野に活用されることは疑いの余地はありません。現在世界各地で実証実験やブロックチェーンのプロジェクトが開始されていますが、その中で下記のような課題があるということです。

  1. エネルギーのP2P取引は膨大な取引量に耐えられるスケーラビリティ(拡張性)と取引スピードが必要
  2. 今後法律や規制がどう対応、整備されていくのか見通しが立っていない
  3. 既存システムと新しいブロックチェーンプラットフォームとの互換性

Rocky Mountain Institute(RMI)のJesse Morrisさんがパネルディスカッションでコメントしていましたが、エネルギーのP2P取引量が爆発的に増えていけば、ブロックチェーンのスケーラビリティや取引スピードに支障が出ることが懸念されています。
またワシントンDCの弁護士が参加していたセッションでもテクノロジーの進化と規制の法律/規制の対応について見通しが立っていないこと、現状のシステム、オペレーションにおいてブロックチェーンを活用したプラットフォームをどう互換性を持って統合してくのかも大きな課題として挙げられていました。

このような現状の課題をRMIがEnergy Web Foundation(*4)というコンソーシアムをオーストリアのGrid Singularityと共同で立ち上げ、参加企業で現状課題を共有し、どのように改善していけばいいのかを研究しているそうです。これからさらに実行可能性や実務がどうなっていくかをより詳細に検証していかなければならないといった状況です。
既に東京電力はこのEWFに参加済み(*5)ですが、日本のUtilityもここに積極的に参加してブロックチェーンのユースケースや研究事例を参考に今後の戦略を立てた方がいいかもしれません。

ブロックチェーンを活用したビジネス領域

このようなブロックチェーン関連フォーラムにUtility会社がパネリストで多数参加されていたことは、彼らも今の中央集権型のビジネスモデルに危機感を感じているように思います。それでも今回参加しているUtilityはまだ新しい技術やテクノロジー会社と協業しようという意気込みを感じますが、まだ少数派かもしれません。

そういう意味では、全体の流れでは、USより環境問題などに関心が高いヨーロッパ(UKやドイツ)の方が先行していて、US企業も追い越すためにグローバルでブロックチェーンプラットフォームのシェアの獲得、グローバルスタンダード化を目指しているようです。

最初のプレゼンターであったGRM Research(*6)がエネルギー業界のユースケースということでブロックチェーンを活用できる18の領域について挙げているのが今後の新しいビジネスモデルを考慮する上で参考になるかもしれません。

出典:GTM Research at “Blockchain in Energy Form 2018”

  1. 電力取引関連
    1. Decentralized Energy Exchange (分散型エネルギー取引)
    2. Demand Response (デマンドレスポンス)
    3. EV Charging (EVチャージ)
    4. Distribution Management (流通管理)
    5. Grid Flexibility (グリッド柔軟性)
    6. HEMS/BEMS (ホーム/ビルエネルギー管理)
    7. P2P Energy Trading (P2Pエネルギー取引)
    8. Wholesale Trading (卸売取引)
  2. 会計、支払い含むその他エリア
    9. Retail Billing (小売への請求)
    10. Asset Registry (資産登録)
    11. RECs: Renewable Energy Certificates (クリーン電力証書)
    12. Materials Traceability (資材(資産)追跡)
  3. CAsset Tokenization(資産のトークン化)
    13. Renewable Energy Token (再生エネルギートークン)
    14. Clean Energy Mining (クリーンエネルギーマイニング)
    15. Shared Renewable Energy Assets (共有した再生エネルギー資産)
  4. Cybersecurity (サイバーセキュリティ)
    16. Identify Authentication (認証識別)
    17. IoT/DER(Distributed Energy Resources) Security (IoT/分散型エネルギー源のセキュリティ)
    18. Grid Security (グリッドセキュリティ)

日本のUtility会社、エネルギー関連会社も実証実験など日本国内で行っていますが、日系企業の強みやグローバルでまだ弱い、参入者が少ない部分、ニッチな業務にフォーカスして投資すれば、まだ日系企業も太刀打ちできると感じています。
但し、国内だけではなく、グローバルな視点でビジネス展開、アライアンス連携などその分野で自らリードしていくことが必要です。

今後、引き続きUS/ヨーロッパの新しいテクノロジーやサービスなどの動向やトレンドを調査、分析しながら、少しでも日本のエネルギー業界に貢献できればと考えています。

このカンファレンスについてより詳細な情報についてのお問合せやリサーチなどの追加調査依頼などは個別に対応致しますので、お気軽にこちらまでご連絡下さい。

【参考情報:企業、サイト、ニュースなど】
(*1)Greentech Media: Blockchain in Energy Forumの主催者
https://www.greentechmedia.com
(*2)Utilityの投資情報として最近TEPCOがUKのElectronとドイツのConjuleへの投資が話題になっていました。
英国ベンチャー企業Electron社への出資について
ドイツ大手電力innogy社と共同での電力直接取引プラットフォーム事業の立ち上げについて
(*3)LO3が主導するBrooklynmicrogridのプロジェクト
https://www.brooklyn.energy/
Youtube:https://youtu.be/WKHV5_KYw8k
(*4)Energy Web Foundationのサイトと紹介動画
http://energyweb.org/
Youtube:https://youtu.be/FjKIN9oUt2I
(*5)東京電力がEWFに参加したニュースリリース
TEPCO joins global energy blockchain initiative- Energy Web Foundation
(*6)GTM Research Greentechのグループ会社でエネルギーのリサーチ会社
https://www.greentechmedia.com/research